これまでの展覧会の紹介



「夢枕」より ©林静一 発行 PARCO出版
湯浅 何で「夢枕」を描こうという、構想はどこから始まっているんですか?

 「グッピー」描いて、すぐに小学館から話が来ましてね。もう一度「ビッグゴールド」を復刊するから、復刊最初の号からやってくれと。僕は「グッピー」からの「リアル」の問題について、いろんな方がいろんなことを言うんですよね、両面があるのにね。たまたま「グッピー」では片面を追っかけたんで、「夢枕」のほうでリアリズムの復権みたいなね。それは大切なことですよ、と言いたかった。

湯浅 でもそういう風に両面があって、両方やっているという人はあまりいないですよ。両方やるにしても、ここまで作品の中で語っていくって言う人はあまりいない。

夏目 あと「グッピー」はコマの大きさがまったく変わらない。あれは何を意図されて?

 コマを大きくしたりすること自体、作家の意図が組み込まれれるわけですね、出来るだけそういうのはさけたいというのがあったけど。単調でおなじリズム。ジャワの音楽みたいな。おんなじ音が出ているようだけど、少しずつ音階がかわっていくような。

山下 ところが「夢枕」は一ページどーんっていうのがずいぶんありますからね。


「夢枕」より ©林静一 発行 PARCO出版
湯浅 「グッピー」と「夢枕」と対で考えていくというのはかなり有効?

 それは結構有効。山下さんが解説でいろいろご指摘なさったように、僕は雪岱が好きなんですよ。

山下 小村雪岱。今日一番聞きたかったこと。畳のところね。雪岱の「青柳」っていうね、青畳があって三味線とかポーンと置いてあって…。埼玉県立近代美術館の所蔵で、年明けに展示するんですよね。久しぶりに。

 そうですか、それは見たいな。

山下 小村は生まれは明治なんですけど死んだのは昭和15年で、昭和の春信って言われた人で、浮世絵的な版画、映画とか舞台美術、資生堂の衣装部のデザインにも関わった人で。いろんなことをやっているって意味でも林さんに通じる。いつか展覧会やってやりたいなと思っているんですけど。僕、この「夢枕」読みながら、林さんは竹久夢二が引き合いに出されることが多いんだけど、夢二よりむしろ雪岱のほうが林さんのイメージの中で強いのかなって。「夢枕」に出てくる女性、これ全部後ろ向きですよね。正面向きの女性って描きませんよね。

 絶対ではないですよ。

山下 基本的にはほとんど横顔。「夢枕」はほとんど後ろ向き。雪岱は後ろ姿にこだわった人だし。あとつげさんの「もっきり屋の少女」。この後ろ向きってことに意図というか?

 やっぱり顔自体がでるというのは、かなり情報量多い。読む方にいろいろでてきちゃう。読み手の個人的な体験の中の情報が付加されちゃう。だから出来るだけそれを避けたい。それと僕は雪岱が好きで、春信も好きなんですね、お正月の用品、鏡餅、猫が遊んで黄表紙が転がっていたり、コタツがあったり、こういう風なものを描いたっていうのは、世界的に見ても無い。日本独特の文化だと思いますよ。

夏目 後ろ向きに関しては、漫画の方でいうと、目鼻が見えたとたんキャラクターになるんですよ。そこには心理描写があり、表情があって、つまり感情がはいるんです。この女の人は基本的に人間ではないので、そこまで近付かない、というふうに僕は理解した。下敷きの「草枕」の那美さんはまぁ人間ですよね。で、ちょっと泉鏡花もはいっている?

山下 雪岱が泉鏡花の本の装丁を結構やっている。名コンビだった。だからそこで全部つながるんですよ。

 那美さんのね、やっぱり、わかんないのね、顔が。漱石の那美さんは全体のぼーっとしたイメージはわかるけど、あんまり仕草でてこないでしょ。

夏目 一応面立ちの描写あるんですよね。あるんだけどけどわかんない。すごい抽象的なね。

 独特ですよね。不思議な女性っていうのが、印象付けられている。

夏目 やっぱりお風呂場。あれが一番印象に残る。湯気の中、見えるか見えないかで、スッいなくなって、笑っている。人間離れしている。ああいう存在ですよね。僕、小学校の時と中学校の時に2回、湯気の向こうの女性って見ているんですよ。1回は叔母の家でね、夜中にトイレにいったら真っ暗な廊下の向こうに、お風呂の戸が開いていて、湯気の中、姉の同級生で、すごいスタイルのいい人が裸で立っていた。まー、きれいだったねー。次はヒッチハイクで諏訪に行った時に温泉に行ったらそれが混浴で、旅館の仲居さんだと思うんですけど、入ってきたんですよ。これがまたきれいなんですね。ああなると人間あんまりスケベになりませんね。何か、お願いするとかそういうことではなく、(笑)神々しいものをみたような感じになりますね。

山下 湯気の向こうの女性ってすごいアイコンですよね。僕も1回混浴でね、あったんですよ。若いすごいきれいな人だったけど、夫婦で入ってきて、だんなのほうは刺青してあったんですよね。(笑)

湯浅 強烈ですね。(笑)

 ちょっと泉鏡花だね。(笑)

夏目 話がずれちゃった。(笑)女性ともう一人、河童がいるじゃないですか。あれはどういう風なことで…

 そうですね、山水に河童というのが、ちょっとミスマッチで、あんまり中国の絵で河童がいるっていうのないな、と。これはビジュアル的にだしてみて面白くて。彼が喋ってくれると、私が直接言うよりはね。結構辛辣なこと言うでしょ。

湯浅 つなぎ役みたいなものですね。

 うん、そうですね。狂言回し。

夏目 これ、主人公の顔は何でこういう顔しているんですか?

 当時の30歳代の顔っていうのを。

湯浅 なんか20年前のテクノっぽい。

 うん、そうそう。刈り上げているんですよ。これ結構探したんですよ、男性ファッション誌とか見てね。長髪にしちゃうと我々世代に近くなっちゃうから。もっと刈り上げてもいいですね。戦前のバリカンできちっと刈ったような。あの方が描いてますよね、「小説家と挿絵画家」ですか? 同じ鏡花の装丁をしていて「築地明石町」を描かれた…

山下 鏑木清方。

 うんうん。あの画家が白い浴衣を着ていて、こういうふうに刈り上げて。ちょっとクラシックだと、絵について語ったり、思索したりってキャラクターになるかなって。あんまり現代風だとね。

山下 昔の書生風とテクノとが同居しているような。

湯浅 あぁ合体しているんだ。

湯浅 最近の漫画って、眼の描き込みがすごかったりして、見ているほうを圧迫する感じがしてるんですけど、「夢枕」はそれのまったく反対で、読んでいるほうが中に入っていっちゃう感じ。この世界はどういうところなんだろうなって、手で探っていきたくなるような空間の作り方だなと思って。

山下 やっぱりガロ育ちだと、生理的にぜんぜん受け付けないものってかなり多いですね。

湯浅 そうでしょう。多いですよね。

山下 松本大洋以後みたいなものがね、なんかかなり苦手意識がある。もちろん面白い人もいますよ。漫画の文法自体についていけないところがあるんですよ。